Archive for 10 月, 2011

2011年11月号

木曜日, 10 月 20th, 2011

◯月◯日
韓国仁川空港に着く。友人の出迎えを断っていたので、空港からソウル中心街のホテル行きのリムジンバスに乗った。
2年振りのソウルだが、仁川からソウルの道のり風景がずいぶん変わっている。車窓からいたる所で工事中の風景が見られたのだが、今回は何もなかったように整備されている。その風景を眺めていると、町がソウルから仁川に伸びてきているのが如実に分かるのである。
ホテルで友人の翻訳家郭美京さんと待ち合わせて、景福宮がある界隈へ行く。そこは、景福宮の山側に大統領府の青瓦台があるので、道のあちこちに警備の人と分かる人が立っている、というより見張っているのである。そこで案内されて行った処が〝カフェMUZE〟。それはそれは小さな喫茶店で、5〜6人座ればいっぱいという、まるで商売気のない空間だった。オーナーの李漢模さんがオモシロイ人だから、私に会わせたくて、と郭さん。
郭美京さんと私は、小説家の金源祐さんを通して10年来の友人である。郭さんは、向田邦子さんや佐藤愛子さんの小説を韓国で出版している翻訳家だ。その郭さんは、自分が育った景福宮界隈の町に今年引越して来たそうで、今この古い町で快適に暮らしているそう。
そんな話をしている時に、李さんが唐突に「木戸さん、マッコリ好きですか?」と聞く。「それはそれは、好きですよ」答えたら、ちょっと行きますか、と店をそのままにして、どこかへ案内する様子。路地を3度曲がり、着いた処は新築家屋の工事現場だ。
一階の奥で〝棟上げ〟の祝いのような設いがされ、職人さん7〜8人が蒸した豚の頭や小豆の餅、果物などの食物を囲み、マッコリを飲んでいた。郭さんと私を案内した李さんは、いつの間にか居なくなり、〝棟上げ〟の中心にいた建築家の横に私たちの座るスペースをあけて貰い、早速マッコリを頂戴する。
「安藤忠雄さんはお元気ですか!?私は韓国の弟子です」とその建築家さんが日本人の私に愛想をしてくれる。
日本と比べ、韓国の建設の早さを見てきた私は、その理由を建築家さんに聞いてみた。すると、彼は「建築家は、建築現場の管理も仕事なので、各々の職人さんの仕事がスムーズに出来るように臨機応変に対処している。職人さんに時間の無駄が出ないようにしている」とのこと。働き盛りの職人さんの一人が、私に豚肉を切り分けてくれる。突然の訪問者である私のような怪しい日本人にも、なんとも紳士的に対応してくれる職人さん達だった。
夕方、金源祐さんの快気祝いをする居酒屋へ行く。サンマの一夜干しや刺身が旨いと評判の店だそう。金源祐さんは、李朝最後の閔妃事件を題材にした大河小説「憂国の海」で有名な小説家だ。私とは金さんが2・3度呉に取材に来てからの付き合いだ。その金さんがガンの出術して、やっと大学教授の現場に復帰したとのことで、私が見舞いにやって来たのである。
お酒をまだ飲めない金さんが、マッコリを旨そうに飲み干す私を見て、来年また日本に行きます。その時は飲みますよ、と羨ましそうだった。

○月◯日
昼、平壌冷麺の有名店へ行く。この店には10年以上前になるだろうか、金源祐さんが連れて行ってくれた店だ。その時、冷麺があまりに旨かったので、本誌にその時のことを書いたことがあった。
今回訪ねたのは、金さん行きつけのその店がそのままあるのか、あったら、もう一度食べてみたいと思っていたのだ。
友人の許さんが調べて案内してくれ、店にたどりついたのである。当時の店も残っているが、その隣に大きな店舗を構えていた。そして、当時の店の壁になんと、私のその店のことを書いた〝編集長日記〟が額に入れられて飾られていたのである。いやはや驚いたのなんの!?そのことを現在の店主に伝えると、笑顔で握手、記念写真をその額の前で撮られてしまった。次回は、私の写真入りの額を拝みに行こう!?

○月◯日
朝から新しい工業地区に案内するという許さん。許さんは、現在携帯電話の画面素材を取り扱う会社を経営している。韓国の〝IMF危機〟の時に、大邱で仕事をなくしてソウルに出て来た。その後12・13年で独力で会社を立ち上げ、成功した。彼と知り合ったのは、呉である。呉の日本語学校の2期生で、その時私と知り合い今も交流が続いている。
その彼が、ソウルの変化のスピードを見て欲しいという地域がソウル南部のこの地域だ。20階クラスの大きなビルが軒を連ねている。そのすべてが工場である。よくよく見ないと、商業ビルか住宅ビルに見える。アメリカのシリコンバレーのように、様々な業種が合理的に仕事が出来るように集まり、この地区だけで完品が出来上がるという。また、研究施設も集まり、韓国の一大工業地域になっているという。いわば〝特区〟で、国を上げて優遇税制を仕掛け、世界の経済スピードを追い越す仕組み作り出した。
その一角にある工場ビルの地下にある健康ランドに行く。私の風呂好きを知る彼が、どうしても連れて行きたいというチムチルバンだ。温度別のサウナ、汗蒸浴、砂風呂ならぬ小さなセラミックボールが敷きつめられたサウナ、そして氷サウナといたれりつくせりの施設だ。施設の中心の広間には、それを取り囲むように眠れるほら穴のようなスペースがズラリ。子供が遊ぶキッズルーム、そしてジムはもちろん、ゴルフの練習場まである。私が経験した健康ランド、チムチルバンの中でダントツ一番の施設だ。そして料金は500円というから、言うことなし。
チムチルバンを堪能した後は、同じ階にある飲食店へ。そこで食べたのは、メンタイチゲ、そしてお目当てのケジャン。ワタリガニのしょうゆ漬けだ。この店のケジャンの味つけは絶妙で、私は3ばいペロリとたいらげた。
いやはや、ソウルは快適、奥が深いぞと思ったのだ。