Archive for 8 月, 2012

2012年9月号

木曜日, 8 月 23rd, 2012

◯月◯日
東京に新しい広島県のアンテナショップが開店した。その名前は〝TAU〟。〝たう〟とは広島の方言で届くという意だ。広島県の広報が仕掛けた〝おしい広島〟のキャッチフレーズ、〝たう・たわん〟と同じ発想のようである。
人気テレビ番組〝秘密のケンミンSHOW〟は、この番組の性格上長く続けるとネタ切れになるのでは、と余計な心配をしながら見ている。この秘密のケンミンSHOWの原点の一つが、東京銀座に集中する各県のアンテナショップである。その地域にしかない食材や加工品を、全国の人が集まる東京でどう受け入れられるか試す場である。そんな中で、2度目のアンテナショップの新店の名前を〝TAU〟にした広島県。それらの食品が東京の人達に購売する気にさせることが出来るか、心に届くか、〝たう・たわん〟のスタートである。
〝秘密のケンミンSHOW〟が人気番組になった一番の魅力は地方だけで食べられている〝地元飯〟の存在だ。その地域では当たり前に有名、しかし外の人、私達には全くの無名の〝地元飯〟って一体どんなもの!?と興味をそそらせるのだ。
その〝地元飯〟の正体が明らかにされていく過程を、地元の人自ら説明するところが説得力があるのである。方言と共に〝地元飯〟を食す場面、片やスタジオでタレント達が〝うまい、ウマイ〟と標準語で表現する〝地元飯〟の対比が実はおもしろいのである。方言ならではの伝える強さが、視聴者に〝たう〟のである。
広島の方言でいえば、方言がそのまま題名になり、大ヒットしたのがコミックの〝カバチタレ〟だ。呉在住の田島隆さんの原作である。漫画を担当する東風孝広さんも呉出身である。方言まる出しのシーンの背景も地元っぽくて、余計ニヤリとさせられるのだ。また〝カバチタレ〟は桜井翔さんなどの主演で2度もテレビドラマ化され、全国区の認知度を得ている。そして現在も〝特上カバチ――カバチタレ2〟として週刊モーニングに連載されている。
また、呉弁の物語としては、今から1年前にテレビドラマ化された〝この世界の片隅に〟がある。原作はこうの史代さんの3部作で、主演は北川景子さんだった。ドラマでの彼女の純粋可憐な呉弁が私の心に〝たう〟状態が続き、涙が止まらなかったことを想い出す。
戦争末期の呉が舞台で、一人の若い主婦の日常を淡々と描く今までにない戦争ドラマだ。〝忘れてはならない戦争があった日本〟をあぶり出した秀作だった。
また、呉のドラマでいえば〝仁義なき戦い〟があまりにも有名だ。〝わりゃあのおー〟に代表される荒っぽい呉弁である。それに比べて女性の呉弁はなんと可愛らしいことか。〝うちねぇ〜、知らんけんね〟など、こうのさんの作品で再認識させられるのだ。
ところで、方言で思い出したことがある。私が東京の劇団にいた時のことである。粟津潔さん作の〝東京三文オペレッタ〟が私の初舞台だった。その時にもらった役は乞食のおかま役。乞食の劇だから、乞食役はいいのだがおかまの役が初舞台とは、ちと荷が重かった(笑)
私の出番は劇中、舞台を唐突に横切って笑いを取る役回りだ。しかし、舞台を重ねても私の演技は一向に笑いを取れないままである。そして全国公演も半ばに差しかかり、故郷の広島公演の日になった。私は舞台ごとに色々やってはみるのだが、殆ど空振りである。そこで私は、演出の小沢昭一さんに無断でセリフを変えて、すべて広島弁でやってしまったのだ。はてさて、何ということか、ドカーンと客席が湧いたのである。いつもは湧かない場面でドカンときたものだから、舞台をモニターで聴いていた他の出演者は、何が起きたんだ!?と訝がったそうだ。
しかし、私の方言セリフの成功は広島がダントツで、その後の公演での〝私のウケ〟は尻すぼみに終ったのである。
今回の特集〝呉弁は呉のデザインである〟は高坂利雄さんの〝呉地方の方言辞典〟を基にして編集した。その高坂さんには本誌が創刊してすぐの号に登場して頂いたことがある。〝塀の向こうの大和〟のインタビューだった。
高坂さんは呉海軍工厰に勤めていた時、建造中の「大和」に入ったことがある。その時の驚き、大き過ぎて中がどうなっているか分からず、迷子になりそうだったと話されていた。そのインタビューの時に「呉地方の方言辞典」を高坂さんから頂いたのである。以来20何年、私の座右の書となっている。
この方言辞典のおもしろさは、各々の方言の使われ方を高坂さんがユーモア溢れる文章で綴っているところだ。とくに艶っぽいエピソードが冴えていて、ニヤリとさせられるのだ。また、方言辞典のあとがきに、〝ともあれ、この本は関係者全体の善意に取り囲まれて世に出た〝幸福な本〟である。読んでいただく多くの人びともまた幸福であるはずである〟とある。
方言は、つくづくきずなを感じるツールであり、地域が育てたデザインだと思ったのである。