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2017年6月

水曜日, 5 月 24th, 2017

○月○日
映画「孤狼の血」の撮影が、連日呉の町のあちこちで行われている。物語の舞台である撮影現場には、必ずヤジ馬が群がる風景があった。
このひと月、呉は小さな祭りのようだった。撮影隊がまるで神輿のように、行く先々で祭りを作り出していた。町の人たちは、その現場の緊張感を共有したことで、祭りに参加した感じを持ったことだろう。
〝川原石の裏通りで、血だらけの松坂桃李を見たで〟
〝血だらけ?〟
〝ほうよ、ありゃあ、アクションシーンじゃったで〟

〝役所広司がヤクザのようなかっこうして、レンガ通り歩いとったが、あれは刑事の役じゃと聞いとったけど―〟
〝呉原東署の刑事、大上刑事の役よ〟
〝呉原?〟
〝呉のままだと、色々問題が出るかもしれんけ、呉原市というフィクションの地名になっとるんよ〟
〝役所広司、やっぱりかっこよかったで〟
〝ヤクザのような刑事じゃったろ〟

と、あいさつのように町で交わされる映画撮影の会話である。
今回の「孤狼の血」以前でも、呉が舞台になった映画やテレビドラマは数多くあった。最近では、映画「海猿」がヒットして、撮影地巡りが話題になったし、大ヒットアニメ映画の「この世界の片隅に」も、いまだに〝呉の聖地巡り〟のファンが絶えない。
また、テレビドラマで代表的なのが、呉出身の脚本家池端俊策さんの作品だ。NHKドラマの〝帽子〟〝幸福の条件〟〝約束の旅〟やフジテレビの連続ドラマ〝並木家の人々〟などである。
撮影地としての呉の特長は、海軍がつくった港を持ち、三方を山で囲まれたすり鉢状の町で、丘陵地の坂道は昭和の風景が数多く残っていることだ。
「孤狼の血」の時代設定は、昭和63年、今から約30年前の呉である。この映画のルーツのような「仁義なき戦い」はそのまた30年前の時代の物語である。
昭和の風景のままの地が、撮影場所になったのだが、その場の多さを教えてくれたのもこの映画の撮影隊だった。
中通りのお好み小路、黄ビル、アカプルコ付近、珍来軒、料亭近惣、〝呉原東署〟になった旧呉市水道局、広多賀谷の邸宅などだ。

1988年、昭和63年の本誌のバックナンバーを開いてみた。中でもおもしろかった記事が12月号だ。特集の〝酒のある風景〟に今回の映画の舞台にぴったりの酒場がたくさん出ている。
中曽根元首相が海軍時代に通ったという〝ラパン〟、文学座の杉村春子も訪れた〝どん底〟、長谷川一夫の舞台で新内を演じた窪田美津子さんの〝新内〟、そして名物マスターがいた〝海賊〟だ。これらの店はすでに閉店してしまったが、今も健在なのが、シロクマ、ナポレオン、アカプルコなどである。
それらのモノクロの店風景は、そのまま見事に〝昭和〟である。映画の役所広司がその風景に入るのを想像してみる。
呉は、また〝映画の撮影地〟という贈りものをもらっている。