2016年11月号

「この世界の片隅に」という贈りもの

○月○日
こうの史代さんの「この世界の片隅に」がアニメーション映画になって、やっとこの11月に全国公開を迎える。
監督は片渕須直さんである。原作のマンガ「この世界の片隅に」は今から10年前に、「漫画アクション」に掲載されて、単行本として上・中・下巻が発行されている。
私がこうのさんを知ったのは評判になった前作の「夕凪の街 桜の国」の単行本である。原爆投下の広島を描いたものだ。その広島出身のこうのさんが次回作は呉が舞台の物語を準備している、という記事を読んで、私は東京に住むこうのさんを訪ねたのである。
ほどなくして、「この世界の片隅に」の連載が始まった。物語は昭和18年12月から始まり、雑誌連載もまた平成18年12月より始まる。漫画アクションは隔週誌だったので、ひと月に2話づつ進む仕掛けだ。連載の発売月と作中の月が同じだから戦時中の時間の流れが、読む者にリアルタイムで伝わってくる。特に私のような呉に住むものにとって、町の背景や呉弁の会話に時を超えた〝この世界〟が感動を与えてくれたのである。
〝この世界の片隅に〟という題名のことを連載中、私はいつも考えさせられていた。〝この世界〟とは、どのような世界を指しているのだろう?作者の意図を受けとめたいのである。
物語は、広島の江波から呉の上長ノ木に嫁いでくる主人公すずの日常である。呉での新しい生活、そして故郷広島への愛着が折りなす、すずの〝この世界〟が変っていく。すずの視点が狭くなったり広くなったり、深くなったり、浅くなったり戦時下の厳しい現実がすずの生きる意識を変えていくのである。
〝この世界の片隅に〟生きざるを得ないことをすずは自覚していく。のんびりとした性格のすずが自分の本心に気づいていく物語の展開に、読者も〝この世界〟のとらえ方が一様でないことに気づかされる。
このへんが作者こうのさんのスゴさである。〝この世界の片隅に〟が発表されてすぐ、これこそアニメーション映画にしたいな、と思っていたが、まさに10年たって実現した。
監督の片渕さんは制作において大変な苦労があったと聞いている。原作の脚本も担当したという片渕さんの映画は、監督独自の〝この世界〟になり上がっているはずである。
私たち呉に暮らす者にとって70年前の呉の町の日常風景が垣間見られることに感動したい。
11月公開のこの映画、呉の人々への贈りものとして受け取りたいのである。そして映画を観た人は〝この映画は私たちへの贈りものだよ〟と言って誰かに伝えてあげてください。

©こうの史代/双葉社

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