2018年7月号

○月○日
〝この世界の片隅に〟のテレビドラマが7月から始まる。このドラマを作るメンバーには、脚本岡田惠和、音楽久石譲という名が連なり、製作するTBSの力の入れようが分かる。その中で役者では、松坂桃李がすずの夫役、そして義父役に田口トモロウの二人が出演する。この二人は、映画『孤狼の血』にも出演していて、続いて呉弁で演じるのも呉の住民としては、実に興味深い。
『孤狼の血』といえば、先日続編の映画化が決定したばかりである。小説『凶犬の眼』が原作になる。主役は日岡巡査だ。前作では刑事だったが、今作では県北の僻地に飛ばされ、駐在所勤務である。あらすじは、そのとき日岡が出会ったのが、敵対する組長を暗殺して指名手配中の男だった。その男の身柄を拘束すれば、刑事として現場に戻れるかもしれない。日岡がそう目論むなか、男は自分が手配犯であることを認め、〝もう少し時間がほしい〟と直訴した。男気があふれる男と接するにつれて、日岡の中に思いもよらない考えが浮かんでいく。神戸の山口組の抗争事件が日岡にせまってくるー。時代設定は平成二年。今回、物語は呉が主な舞台ではないが、前作の主要人物は呉にいるから、日岡も呉に顔を出すのだ。日岡の心は呉にあったのである。
呉の住民にとって、松坂桃李の演じる日岡刑事、そしてすずの夫 北条周作から目が離せない状況にある。
○月○日
〝オコゼのおいしい店、教えて〟という電話が私のところに何本かかかってきた。聞いたところによると〝呉おこぜフェア〟というのをやっているらしい。調べると、主催オニオコゼブランド化推進協議会、事務局呉市役所農林水産課内とある。呉市もいろんな企画で町の活性化を計る仕掛けをやってくるもんだと、感心している。
実をいうとオコゼは私の一番好きな魚で、刺身とアラのみそ汁が定番だ。呉のオコゼのことは、吉田健一著作の〝舌鼓ところどころ〟の中で、絶賛している。吉田氏は呉の松本建設一族の野々上慶一氏の友人で、何回か呉を訪れ、瀬戸内のカキ、メバル、ハゲなどの味のことを詳しく書き残している。野々上氏は「文学界」創刊時の出版元の書店主で、自著の「ある回想」などで呉とのかかわりを書いている。ということで、呉のオコゼは昔から食通には有名だった。
そのオコゼフェア開催中のとき、東京から「居酒屋礼賛」で有名な浜田信郎さんが出張で呉に来て、いつものように居酒屋に繰り出した。行きつけの鳥屋さんはオコゼフェアの開催店ではなかったが、水槽にはちゃんとオコゼが泳いでいた。早速頼むと、一緒にメバルの刺身も並んで出てきたではないか!いやはや素晴らしい。小魚でトゲがあり、刺身にするのは厄介な魚なのである。浜田さんも喜んで箸が進む。そして極めつけは、オコゼのアラのみそ汁だ。酒を飲む手がとまり、皆一斉にみそ汁をすすっている。うまい、やはりオコゼはみそ汁にかぎる、と吉田健一氏同様、皆も申してました。
○月○日
7月に呉市民劇場の例会で、坂本長利さんの一人芝居〝土佐源氏〟を絆ホールで開催するという。もう30年くらい前に、二河川にかかる木造の太平橋のたもとを舞台にして、〝土佐源氏〟の芝居を開いた。〝土佐源氏〟は戯曲ではない。民俗学者の宮本常一が昭和16年に〝土佐檮原の橋の下の小屋に住む盲目の老人から聞き書きされたものだ。それを坂本さんは自分で脚本にして一人芝居として上演した。初演は1967年、私が主催した二河川太平橋たもと上演は1980年代だから、いやはや今回の呉公演は何回目になるのだろう。
坂本さんが本当に年老いて演る〝土佐源氏〟がどう変わったか、是非会いにいきたい、と思っている。

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