2016年4月号

○月○日
くれえばんの3月号といえば、恒例の卒業高校生特集である。この特集はすでに30年続いている本誌の看板特集の一つである。
地元の高校生は卒業すると、半分ぐらいの生徒は大学や専門学校への進学や就職で呉を後にする。そして、そのまま呉に帰ることなく、就職、結婚と、大都市など外の町で暮らす人も多い。そういう彼らにとっては、高校を卒業することは、同級生たちとの別れはもちろん、故郷呉の町や家族との別れを含む人生最初のターニングポイントのときに違いないのである。
そこでタウン誌の役割としては、故郷を去るかもしれない卒業生の一端として登場してもらい、この年はこんな卒業生が地域で学んでいましたと誌面に残すこと、これも町の歴史の一面だと思うからである。地域の高校すべてを網羅するこういう企画は、日本全国数あるタウン誌の中でも、唯一本誌だけなのだ。驚いたでしょう!?地域の高校の卒業生風景はまさに町の歳時記になっていました。
しかし、近年子の高校生特集にクレームがつくことが少しずつ増えてきていました。誌面に登場する生徒の制服姿についてである。化粧、髪、スカート、靴下など、校則違反している真面目そうでない生徒が誌面を飾ることは、学校側としてはイヤなのである。先生のモノサシに合った生徒ならよろしいということだった。
そんなことが重なって、最近では学校にお伺いを立てて生徒を取材することが多くなっていた。しかし、そうした学校側の推す生徒ばかり登場させていると、誌面が何というか単なる記念写真の羅列のようになってしまい、見るものを引きつけないのである。音楽やファッションに敏感な生徒や教室で笑いをとることに熱心な生徒は、やはり表情が豊かで誌面にも躍動感が生まれるのだ。そんな中から、今まで俳優の国生さゆり、歌手の清水綾子、島谷ひとみ、〝19〟などが誌面の中での出合いがあったのである。
そこで今年は停滞気味の高校生特集の中で、町のファッションコーディネーターに高校生を変身させるという企画を組み入れた。〝卒業高校生〟がモデルの〝ビフォー・アフター〟企画だった。モデルを頼んだのは、各校に取材したときに出合った生徒たちである。写真を見ると皆カワイイ子たちだった。その中でも目を引いて美形に変身していた生徒が広校生だった。濃茶色の髪がよく似合っていた。
ところがである。その広高校からクレームが来た。モデルになった生徒の髪が茶色になり、これは重大な校則違反である。モデルの写真は掲載しないで欲しいというのだ。本誌としては編集も最終で、差し替えは出来なかった。そうすると、広高から企画の題名の〝ビフォー・アフター〟の前に〝一日限りの変身〟というコトバを入れるという提案があった。ナルホド、そういうことでしたらということで〝一日限り〟のコトバを入れて対応した。
私としては、卒業式の3月1日は本誌3月号の発行日として記している(しかし、実際の発売日は22日)し、今までもまだ卒業していないときに卒業生を取材して〝卒業生特集〟としてきた長い歴史があり、学校にも許してもらえると思っていた。
そしてまた、広高から呼び出しの電話が入った。〝モデルになった生徒が学校でひどい教育指導を受けている〟という話を聞いていたので、これは行って話をした方がいいと思い、広高に伺った。
広高に着いて、事務室に入るなりイヤな予感が当たった。何人かの先生が私を睨みつけているのだ。アリャー、である。校長室に入るのに靴を脱いで、と言われる。珍らしい校長室だと思いは行ってみると、これがまた権威感プンプンの空間だった。長い大テーブルの向こう側には、校長、教頭、学年主任、学級担当、生徒指導の先生がずらりと並んで、ポツンと一人の私を事務室同様睨み続けている。おいおい、こんな空気の中で話をするのかと思い、またまた、アレアレである。
〝モデルの生徒は泣きながら今回の件の反省文を書いている。くれえばんは何ということをしでかしてくれたんだ〟
〝3月1日は卒業式だが、卒業しても3月31日までは広高の生徒だ。そんなこともあなたは知らないのか〟
と、校長を始め、一人一人の私への糾弾が一時間も続いたのである。いやはやである。私は30年以上地域でタウン誌をやっているが、こんな吊し上げのような場に出会おうとは思ってもみなかった。
先生たちは見るからに皆私より年下である。だが、学校ではそんな配慮は一切ない。〝あなたは無知だ〟と決めつけるコトバを聞けば聞くほど、学校の先生方との対話は〝時間の無駄〟だと思ったのである。
最後に生徒指導の先生に、あなたのもの言いや態度は気にくわない、と生徒のように言われてしまった。アチャーである。
それにしても今回の件で痛感したのは、私たちが住む地域社会と学校とは、コトバが通じないことが多過ぎるということだ。18歳以上の選挙権引き下げが決まり、卒業高校生はすぐにでも政治意識を持たなくてはならなくなった。高校の先生は生徒達はまだまだ子どもだと決めてつけているが、社会の方は、18歳は住民として主権者として対します、としている。
社会に合わせて学校を変えていく必要が出てきているが、今回の広高の先生方の硬直した貌とコトバを思い起こすと、暗澹とした気持ちだけが残るのである。
いろいろ書いてきたが、とにかく謝らなければならないのは、今回の企画のモデルになった生徒たちにである。本当に御迷惑をおかけしました。申しわけありませんでした。
ということで、〝卒業高校生〟の特集は今回限りで辞めることにしました。